2005年度第18回シンポジウム “地域包括支援のあり方について” |
質疑応答 |
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田中 滋 氏: |
さて、最初の質問をご紹介します。 制度上の地域包括支援センターについて。 まずは片山先生から。日本全国を回って上手くいきそうな地域と上手くいかなさそうな地域というのは、何がポイントになると感じられましたか? 次に村嶋先生に質問したい事は、現実的に、訪問看護ステーションはこういった介護のシステムの中に入っていないのですが、先進的な地域はあるものの、どうしても介護保険の中では比較的不活発な部類に入ってしまいます。これをどうしたら良いのかという事をお答え下さい。 香取課長は、地域で介護を支えるために、市町村はどのような費用面や人材等のバックアップをしていったらいいでしょうか。モデルはあるんですけれども、どういう財源があるのかという質問を受けていますので、お答えいただけると幸いです。 さて、皆さんが考えている間に少しお話を。 先ほど香取課長が「溶解後老人:溶けてしまった後の老人」という誤変換の話をされていましたが、その外にも何か出てこないか私も変換してみたんですよ。そうして出てきたのが「八日囲碁老人」八日間囲碁を続けている暇なご老人ですね。あと「妖怪御浪人」なんだか新しいテレビ番組のような感じですね。 さて、シンポジストの皆様の回答準備ができたようですので、まずは片山先生からお答えを伺いましょう。 これからは地域で何がネックになってくるのでしょうか。 |
片山 壽 氏: |
ご質問ありがとうございます。 やはり介護保険のサミットがあった時にこの三人でシンポジウムを行わせていただいたんですが、市町村の取組にしてもケアマネージャーの仕事をしやすい環境を作っているかということがポイントになると思いました。環境整備に向って努力をしているかどうかということが、今度の地域包括支援センター施行後に試されるのだろうと思います。 環境としては主治医とケアマネージャーの関係というのが核になるんですが、それについても、県や医師会・社会福祉協議会の相互連携が取れているところは問題ないと思います。 ケアマネージャーさんが新しく発生した職種なので、社会福祉協議会も医師会もずっと前からあるものです。尾道ではこれら老舗同士の合体という感じで、地域が安定したと思います。 さてケアマネージャーさんが仕事をするときに、その地域が壁になって仕事が進まないという状況を耳にします。また、利用者の支援についても縦割りで進めるところがある。 まず縦割りのシステムで支援を行っている地域はダメだと思います。 横断的に「うちはうち、でやるべきサービスをさせてもらいたい」と各職種がはっきりと言える体制を自治体や県が作っているところは、大丈夫だと私は思います。 介護保険は縦割りを解消するシステムを誘導する保険だったと思うのです。しかし、そのシステム論を理解できないということが、縦割り解消の阻害要因となり、物事を上手く進められなくなっているのでしょう。 そこで尾道については、医師会と社会福祉協議会が合体するのは必然的なことであったと言えるでしょう。カンファレンスをやっていく中では、当然福祉と連携するべしと思いますし、独居高齢者のカンファレンスをやるなら民生委員の方に来て頂くことは、とても当り前のことですので、早く縦割りを解消して、自分たちが担うべき役割、分担、そして他の職種をサポートできる自らの専門性について気持ちを向けることができることが重要です。 それらを日頃から自治体と会話して、双方の意見を交換していることが大切なのです。そういった会話ができない、縦割りの地域では、地域包括支援センターを円滑に運営するのは難しいだろうと思います。 |
田中 滋 氏: | ありがとうございました。では次に村嶋先生、お願いします。 |
村嶋幸代 氏: |
訪問看護ステーションについてお答えします。 ステーションを訪れた時に、看護師さんが大変負担を抱えているなと感じました。これは重要な問題です。 また、私は日本の看護ステーションの弱点が、規模が小さすぎることにあると思いました。欧米の訪問看護事業所を見ますと、ナースが200人ほど在籍しているんです。それでターミナルケアから福祉に近いことや精神病に関する訪問までを行っています。 私が24時間訪問看護ステーションを一緒に行っている、滋賀県の済生会訪問看護ステーションでは、利用者が280人ぐらいいらっしゃいます。その訪問看護ステーションで住民の方との交流会がありまして、そこで自己紹介をしていらっしゃいました。 それぞれ「私は4年前にここへ来ましたが主任です」とか「係長です」と皆さん誇らしげにおっしゃいます。そうすることによって、次に新しい看護師が職員になったときに、あれくらいの年数がんばれば主任になれるということがわかり、同時に主任や所長、統括所長がどのような機能を持っているのかがわかります。 すると、自分のキャリア・パスが見えていくんです。 訪問看護というのは孤独に訪問先を巡回し続ける仕事ですので、先輩や同僚の人達と経験を共有し、次に自分が向うべきステップが見えるようにしなければならないと感じました。 幸いに訪問看護振興財団の方で、これから訪問看護の認定制度の講習会を始められるというお話を聞きました。こういうことがもっと行われるようになれば、訪問看護の専門性がわかりやすくなり、それによってもっと誇りを持って働けるようになると思いました。 もう一つは、病院の看護と訪問看護ステーションの看護との直接連携がもっと必要だと思いました。 東大病院にも退院支援の部所がありますが、長期化の患者に対して、入院後一週間で「この方は退院のハイリスクだ」という人をピックアップし、退院後も医療援助が必要だという方には早くから退院支援を行い、訪問看護へ繋いでいくという作業を始めております。 これが広まっていくと、訪問看護があるから家へ帰れる、ということが社会的に認知されていくと思います。そうなると医療費の削減にも繋がっていくのではないでしょうか。 |
田中 滋 氏: |
ありがとうございました。 訪問看護の方のお話を伺うと、医師に対抗するための専門性や医師のパートナーとしての側面の話しがでてくるんですが、村嶋先生がおっしゃったのは「経営」の話ですね。組織規模を大きくするというのは、とても重要なことです。役所も組織ですし、大学も組織です。例えば大学なら助教授になったり教授になったりと昇るべき階段が見えているから努力をしやすいのですが、しかし日本の診療所やクリニックや看護ステーションに限らず、ケアマネージャーのいる事業所も、組織が小さすぎるのです。そのため組織の中で伝達されるべき役割分担や、機能を順番に学んでいくことができないのです。これは非常に重要な点をご指摘いただいたと思います。 それでは次に香取課長のご回答をうかがいます。 |
香取照幸 氏: |
では御回答いたします。 まず、地域包括支援センターは「無理につくる必要」はありません。 こういう言い方をすると後輩たちに怒られそうですけれども。というのも、18年4月から施行となっていますが、一応二年間は有用期間を置いているのです。 なぜこの期間を設けたのかといいますと、地域包括センターというのは今自分たちがやっているサービスの、延長線上に作られるのです。 現在様々な形でサービスが作られ、介護保険ができていく中で出てきた課題を解決するために考え出したものなので、形だけ先に作っても、機能しなくなります。たとえば在宅介護センターの中で、先ほど私が説明したようなことぐらいはあたりまえのこととして行っているところはあるんです。ご大層に「○○センター」と看板を書き換えなくても、自分たちで同じようなことをやっているのに、どうして在宅介護センターを潰すのかと詰め寄られることもあるぐらいです。このような状況を見ても、そういった在宅介護センターを地域包括支援センターとして機能させればいいだけなのです。あるいは尾道のように現場のサービス機関(医師会・社協など)を連携させてそういったボードができているのであれば、そのボードに足りない機能を織り込んでいけばいいのです。 けれども、保健士が一人しかいないので、どこかから雇ってこなくてはならない。あてが他になければ、この間やめたOBの人を呼び戻そうか、とか。社会福祉士がいないけれど、どうしようかという議論が多すぎるんです。 どうしても制度っていうのは出来上がった形が出てくるので、その通りに人を揃え、場所をつくろうとするんです。だから「三人いると何平米必要ですか?」という質問までされてしまうんです。でも、平米なんてどうでもいいんですよ。 そんな風にして無理に形を作ろうとするぐらいなら、隣の町で地域包括支援センターができたとしても焦らずに、ゆっくりといいセンターを作る為に議論したほうがいいと思います。 それから財源のことなんですが、現在ある在宅介護支援センターのおよそ二倍が用意されています。また、市町村にも自分の財源がありますので、そこから出される分もあるかと思います。 むしろ財源の問題というよりは、実際にその機能を担うことができる人材・体制を作ることのほうが大切です。そのために委託をしてもいいし、地域の資源を使うという方向で在介センターにいた人が持ち回りで、地域包括支援センターへ勤務するようにしてもいいのです。 まさに共通で皆が利用する場だといいたかったからなので、むしろ急いで地域包括支援センターを形だけ立ち上げるより、機能が果たせるようにすることが大切です。 一応人口二万人に対して1箇所の比率で、とは言っていますが、沢山小さな地域包括支援センターを作ってもかまいませんし、人が集まらないからと人口十万人に対して1箇所だけ作って、後で必要になってから小分けにするやりかたでもかまわないのです。 ぜひ、皆さんにはそういった方向で検討していただきたいと、私は考えております。 財源的にはある程度のものを用意してありますので、ご心配はいらないと思います。それよりは機能にふさわしい人についてみなさん悩んでいると思いますので、そこをよく議論して決めて頂きたいと思います。 |
田中 滋 氏: |
ありがとうございました。 施設基準のように急いで形をつくったり、何平米で作れというようなこともないということでした。 ではまた次の質問が回ってきましたのでご紹介します。その前に、尾道はどのように地域包括ケアを作り上げたんですか? とよく聞かれるのですが、それについては「医療と社会」という雑誌があります。ネットでも「医療科学研究所」で見られますので、そちらをご参照下さい。 さて、片山先生あての質問です。 「地域包括支援をするために、職種間の壁がありますが、それを取り除くには何をしたらいいでしょうか」という質問をケアマネージャーの方から頂いています。 |
片山 壽 氏: |
これは簡単に解決できます。ケアカンファレンスを行うことです。 ケアカンファレンスというのは、やってみなければ絶対にその効果がわからないものなのです。 また、カンファレンスを体得していくための理論なんですが、尾道で採用していた理論はイギリスのCGAです。1930年代に英国の老年科医マージョリー・ウォーレンが提唱した高齢者総合評価(Comprehensive Geriatric Assessment:CGA)です。MDS・RAPs(Resident Assessment Protocols)というアセスメントを皆さんご存知かと思いますが、あれなどはCGAを元にアメリカで作られたものです。 そういったアセスメントを行って課題分析をした上で、どういう資源が必要かについて適切な判断を体得したスタッフを関わらせることです。 こうしてカンファレンスを行ったときに、お互いにファインプレイが出やすくなると、大変いいゲームができる野球のような雰囲気になります。 こういった状況を作り出すためには、やはりカンファレンスを重ね、多職種協働の素晴らしさを体感するべきなのです。 だから、各専門性を持ち寄ったときに「看護と介護の境目」がどうこうという議論をしたことは、私たちは一度もしたことがないのです。 看護と介護はカンファレンスを行っていく中で自然と機能分担をしていきますし、その人の状況を深く理解し、意向を受け止め、どの支援が必要でどの支援が要らないのかをきちんとそこで議論していけば、かならずそのカンファレンスに集まった人々はいいチームになるのです。 だから、自分たちの所属する団体の長同士だけが、お酒飲んで握手したってダメなんです。 私の提言で紹介したカンファレンスに関わる人々は、一つ一つがいいチームを作っているんです。五年も続けているチームもありますし、カンファレンスが十回を超えるチームも沢山あります。その間にも、重度化して人工呼吸器をつけることになると、訪問看護ステーションが二箇所、24時間看護のためにカンファレンスに加わることになります。そのようにして人数が増えていくに従って、その方が地域で生活していける基盤が整っていくのです。 だから尾道で全盲の方でも独居で生活していけるのは、民生委員やボランティアの方がついているからです。 例えば私は、全盲の方の診察は半年に一度しか行いません。 認知症の方でも月に一回の診察です。 きちんとしたサービスさえ行えば、皆さん悠々と独居で暮らせるのです。 専門性というものは、他の専門性を侵略するようなことまではしてはいけないのです。 看護師は看護の専門性を磨いておけば、地域支援で看護が必要になったときに、あるべきパーツのようにぴたりとあてはまるものなのです。 介護も介護の専門性を磨いて、あとは観察力を強化することです。それがある上でカンファレンスでの合意点がきちんと決まっていれば、現場でもすばらしいサービスを行うことができます。 それが利用者に伝わると感謝が返ってきますし、利用者ご本人の状態が大変良くなります。 そんな風に多職種協働を体感することによって、ケアマネジメントが現場に根付いていくのだと思います。 チームで仕事をしたことがなかった人は、その心地よさにハマってしまうんです。だから尾道ではケアカンファレンスが続いています。 チームに入っていないと「わたしだけ知らない」という状況になってしまうのです。 自分がケアを行っていくうちに、チームがあるからできていくということを認識していれば、どんな職種でも垣根はなくなると思うのです。 また、尾道の理論は現場から始まったもので、上からやらせたものではないということも踏まえて頂きたいと思います。 |
田中 滋 氏: |
ありがとうございました。 大変良い回答でした。垣根があるからカンファレンスが開けないのではなくて、カンファレンスをまず開いてしまうということですね。開いているうちに、いつのまにか規模が大きくなっていくんです。 まずはトップ同士が話し合って「垣根をなくしましょう」という合意をして取り除いてから行動するわけではないんです。チームができていくと、何時の間にかその話が広まっていくことが大切だと、ご回答を頂きました。 そこで村嶋先生。村嶋先生は保健士でいらっしゃいますが、これからの地域包括支援センターには保健士の力が非常に期待されているんですが、日本の保健士さんに急に4月から地域包括支援センターに対応出来る人はいるんでしょうか、という質問がきています。 出来る出来ないにかかわらず、やってしまうしかないという意見もあるのですが。 |
村嶋幸代 氏: |
期待されていることには精一杯応える、のは基本だと思います。 ただ、今の保健士の教育は大学の中で八割が看護師と一緒に教育されておりますので、それはマズイのではないかと思っています。免許に値する専門性を身につけないといけないと考えます。 これは宣伝になってしまいますが、東大の場合は修士課程に保健士の卒後教育を行ってから、行政の保健士として就職させるということを、平成18年4月から行うことになっています。 |
田中 滋 氏: |
そういった教育課程も作る必要があるとのことですね。 ですから、香取課長が先ほどお話されたように、急ぐ必要はないということです。 さて、行政の方に質問が集中しているので、その中から三つに絞ってお答えいただこうと思います。 一つは「地域包括支援センターについて、お話を聞いて自分もやってみたいと思いました。これだけ熱い思いを込めて設置される地域包括支援センターですが、自分の地域では絶望的です。行政が冷めていて前々ダメです」とのことですが、この手の質問が沢山きているのですが、香取課長のような人が各市長だったらいいのに、自分のところはだめなんです。どうしてくれるんですか、みたいな意見まであります。 |
香取照幸 氏: |
私は単純な人間なので、物事は楽観的に判断するようにしています。 介護保険を作るにあたって、一番反対したのは市町村なんです。 「こんなのできない」と。 まず「保険料集めができない、国保みたいなことになる」という反論がきたり、「誰でもサービスを受ける権利があるだなんて謳ったら、皆がサービスを欲しがってパンクしてしまう」とか、「こんなに専門職がいない」「ケアマネージャーが予約できない」「責任なんかもてない」とか「ヘルパーなんか嫌いだ」とか、いろんなことを言ってきて大変だったんですが……。 それでも、やっぱり介護保険をやっている時に、私たちが一番頼りになったのが誰かというと、市町村なんです。 普通に考えると、大都市の東京や大阪などは人が一杯いるうえ、試験も難しいので優秀な人がいっぱいいるように思えますが、そうではないんです。大都市の役人というのは、良くも悪くも「お役人」なんです。 きちんきちんと仕事を組み立てていくので、今まで慣れてきたような仕事以外のものを組み立てることができないんです。 我々もそうなんですが。 介護保険をつくるときは、今の老健局ではつくれなかったんです。自分で制度を積み上げてきたところは、自分たちの制度を否定できないというジレンマがあるのです。だから、別の組織を作るのです。 そういう意味では、むしろ「ほんとうに大丈夫?」と思うような弱小の市町村の方が優秀な職員がいるんです。小さい市町村の方が、一人一人の権限が大きいんです。一人で児童も障害も老人も請け負うことが多い環境にあるんです。なぜなら福祉に関する課が三つぐらいしかないからです。そうすると、我々なんかより街の人のことを彼らはよく知っているんです。 複数兼任するために、彼らは医療も介護も福祉も同じ視点で見るので、どこが問題なのかということがわかっているんです。そういう人が一人二人いて「やらなければいけない」と思うと、その市町村は変わっていくんです。 小さいからこそ、誰か一人が思い立てば変化がおきるんです。 すると、介護保険の中でも活躍して全国的に有名になった職員さんがいるんですが、ほとんどみんな中間管理職の小さい市町村の職員です。それも二十代の終わりから三十代ぐらいの、係長になったかならないかぐらいの人達なんです。そういう人達が始め、現場の人がついてきて、変わっていくんです。だから必ず市町村には、探せばそういう人がいるんです。 特養にもしょうがない人が一杯いますけれど、指導員やベテランのケアワーカーに必ず問題意識のある人がいます。そういう人をつかまえて、ネットワークを作り上げていくことが大事なのです。 大学でクラブ活動をするときに、仲間を探さなければならないのと一緒だと、考えていただければわかりやすいと思います。 このように、本当に真剣に介護福祉に力をいれ、地域を変えていけたのは小さな市町村が多かったんです。そういう意味でも、小さくて、力がなくて、お金がなくて全然できそうもないように見える市町村の方が、実は改革を行いやすいのです。 |
田中 滋 氏: |
ありがとうございます。 介護保険の理論的支柱としてひっぱってきてくれた、東京近辺の人口十万前後の市町村にいる課長さん達はほんとうに良いですね。わたくしも本を書いたりするときに、一番頼りにしています。 良い支援センターを作る為に自分で委託を受けたあとは、今インターネットが発達しているのでどんどん宣伝できますし、それが本当に良いと認められれば、モデル事業として話題に上ることもあるでしょう。 時には村嶋先生が研究の対象として選び、それが世界に発信されるかもしれません。 がんばっていれば尾道のように厚生労働白書に写真つきで載ることもあるのです。そうなると、自治体もついて来ざるをえなくなるのです。 もし自治体の反応が冷たかったら、無視して自分で始めてしまっていいと思います。制度上反対はできませんので。 では、あと二つ質問にご回答をお願いします。 実務的なものなのですが「主任ケアマネは今後どのようにつくっていくのか」と、「地域包括支援センターの中立性、公平性という観点において、予防給付の事務を行うと中立性に懸念が残る」という質問をいただいております。 |
香取照幸 氏: |
今の質問についてなんですが、地域包括支援センターの委託と言うのは 在宅介護センターの反省をもとにした制度の設計をしていて、基本的に有期なのです。何年かに一度評価を行うことになっているのです。サービス調整が上手くいかなかったり、支援が上手くいかない場合には、引き上げて別なところに移してしまうこともできるように、設計されているのです。 最初こそ、市長さんと親しいところが支援センターになったりすることもあるでしょうけれど、支援が上手くいっていなければ、その委託先が変更できるようになっています。 運営協議会が作られますので、意義があればひっくり返ることもありますので、頑張って下さい。 次に主任ケアマネについてですが、18年4月からの施行なので、現在はまだ一人もいません。これから養成していく職種です。 なぜ主任ケアマネを作ろうと思ったのかというと、まずケアマネージャーが一人仕事だということ、そしてシニアのケアマネージャーが、現場の若いケアマネージャーを、地域の研修の中などで育てていくような、中間の指導者層を作らなければならないと思ったことからです。 もちろん、ケアマネのキャリアパスという側面についても考えましたが、むしろ指導という面で重要だと考えました。 さきほどのお話でもありましたが、ケアマネの事業所もある程度、現場でお互いにサポートし合えるようなケアマネージャー事業所も考えなくてはなりません。すると管理をして、リーダーになり、場合によっては独立することもありえますし、地域のケアマネージャーを束ねていく必要も出てくると思います。 以上からも、基本的にはケアマネの実務経験が何年かあって、包括的なマネージメントについての研修を受けてもらい、さらに試験を受けてもらったほうがいいという意見も出ていましたので、試験か、試験にかわる評価基準を決めたいと考えています。 おそらく地域包括センターの数を想定すると、5,000か6,000という話が出ていますので、それ以外に独立ということも考えると、今、ケアマネ全体で合格者数が約32万人、実働で8万〜10万人おりますから、おそらく1万人ほどを何年かかけて養成するという目標をもっております。 それから、中立性・公平性の話に移ります。 実は予防のマネージメントについては、非常に問題に感じています。 これは全く、ご指摘のあったとおりです。 個人的には、予防のマネジメントを包括支援センターの機能として入れてしまったのは、ちょっと問題だったかなと後から感じました。 もっと違ったやり方があったと思ったんですが、実際のところ、現場で行われているマネージメントも、予防のマネージメントも、今は渾然一体としてケアマネージャーが一手に引き受けているので、そこを分離してしまうことがなかなかできなかったので、こんな中途半端な形になってしまったのです。 ですが、同じ問題は本体の主任ケアマネにも発生しうるのです。 現場のケアマネが難解なマネージメントの症例をもってきたときなどに、主任ケアマネに援助などを求めますが、そのマネージメントをそのまま主任ケアマネが担当となってしまうのかどうかという事です。 完全に現場のサービスや現場のマネージメントを切り離して、包括支援センターで仕事をまわせるかというと、おそらくそうはいかないと思います。そんなに人が沢山いないので。 それでも、業務の透明性や運営の公平性など、誰かが独占しているという状態にならないように保証することはできるだろうと思います。本当はそこでも中立性を保つ為に人も切り離して考えられればいいんですが、恐らくそれは難しいと思うので、ある程度運営委員会などで一定のルールを作ることと、何年かに一度評価を行って、状況によっては入れ替えることを行うしかないと思います。 あまり中立性・公平性の話をしてしまうと、市町村は全て公務員で地域包括支援センターを行わなければならない、ということになってしまいますので、そのことを踏まえても、やはりあまり急いで地域包括支援センターを作るべきではないと考えるわけです。 |
田中 滋 氏: |
ありがとうございます。 今もケアマネの中立性・公平性について議論が行われることがありますが、地域包括支援センターには「運営協議会」がつきますので、ここを活用するのが、不正を防ぐ一番の方法だと思います。 よく「団塊の世代」が定年後に行いたいものの中に、今流行の「そば打ち」とか「四国巡礼」とかが挙げられますが、運営協議会で活躍するのも定年後の活動としてはいいんじゃないでしょうか。 そういうところへ、自治体の方々は団塊の世代の方に参加してもらってはどうかと思います。こういう仕組みを動かすことこそ、市民の成熟を促すのではないでしょうか。 最後に一言、施設について言及したいと思います。 会場にいらっしゃるのは施設にお勤めの方や、運営者の方が多いと思いますが、地域包括支援センターの中で「施設」がどう埋め込まれていくかのことです。 先ほど片山先生のお話でも施設の連携のお話をされていましたが、 施設はどうしても報酬はまた下げられてしまいそうだし、地域の仕組みなどもできていくと、施設は孤立してしまうのではないかと心配されている方もいらっしゃるようです。 施設がどういう形で「地域包括支援」の中にとりこまれていくのか、ということを御回答いただければ幸いです。 |
片山 壽 氏: |
尾道では「施設協議会」を全施設を対象として2001年から運営してい るのですが、今回の「ホテルコスト」に対しては、頭が痛いなんてものではないくらい、困っております。 施設の位置づけとしては、機能分担をしっかりと行うべきだと思っております。老健施設について、尾道では「JEMS機能」という機能評価を行い、摂食機能と栄養については、老健施設に入所中はアセスメントも行います。老健施設は特養ではなく、在宅に戻すというもともとの機能を果たせるようにしております。 要時間観察において、摂食に関してもどのくらいの量をどれほどのスピードで食べ、どちらの方向から介助し、声がけはどのようにすると、この方にとっての嚥下反射がよく出るのかを観察し、そのデータを全て在宅へ戻すことを行っております。 在宅で長く過ごしているうちに、どうも調子が良くないとなると、強化介護で一度老健へ入ってもらい、そこでエヴァレーションをしなおすのです。そして、見極めを行ったら在宅へ戻すためのケアプランを作り直すのです。 今、老健についてしか申し上げませんけれど、老健は施設の中でも非常にフレキシブルで、より高機能で介護を行うスーパー老健というのも必要であると、私は考えておりますが、とにもかくにも施設は在宅の応援施設であるべきと思っております。 |
田中 滋 氏: |
ありがとうございます。 単なる収容を行う施設としてではなく、地域の中で果たす役割を明確にすれば、もっとも重要なところになると思われます。 村嶋先生はいかがでしょうか。 |
村嶋幸代 氏: |
やはり施設の在宅バックアップ支援機能は大切だと思います。 今のように、在宅で機能が落ちてしまった方を、施設で機能アップし、また在宅で生活していくというように、施設をうまく使いながら在宅で暮らしていらっしゃる方がいます。 もう一つ、私は老健施設に感謝をしておりまして、私の父は要介護の4で、母は要介護の2と、ほぼ同時に要介護状態になってしまいまして、病院から直接家に帰ることができなくて、施設に三ヶ月ほどお世話になっている間に、せっせと在宅のリフォームを行いました。そして二人で三年ほどすごすことができました。 そういう意味では、病院から直接帰ることはできなくても、やはり施設で受け入れていただくことによって、在宅で暮らしやすくなるという、大事な機能があると思いました。 |
田中 滋 氏: |
ありがとうございます。 では最後に、香取課長お願いします。 |
香取照幸 氏: |
実は介護保険ができて、一番施設の機能や役割がはっきりしたのは、老 健でした。老健は非常に機能的で、自分たちの目指すところや、在宅や特養との関係などがわかりやすいのです。 もしかすると、よく施設は「施設三類型」などといいますが、老健はそういう意味で施設ではなくなるのかもしれません。 在宅支援施設になるので、類型としては在宅サービスの延長線上に存在するものになるでしょう。 病院と特養は、非常に難しいのですが、一つは全体的な重度化が進んできたときに、医療も含めた複合的なニーズが増えるということになります。その時に、特養の医療機能をどのようにするかについて、考えなければならなくなると思います。 他方で、可能な限り在宅に近い療養環境や生活を、できるだけターミナルで保障していくことが必要になります。すると居住の機能や地域生活の継続性が問題になりますので、いわゆる「収容施設」というイメージのままではダメなので、普通に近い生活ができるようにすることと、できるだけ本人の能力を伸ばし、重度化への対応も要求されるので、施設はかなりレベルが高いものを要求されていくことになると思います。 さらに、介護保険でも医療でも人的・物的な側面において、資源は施設に沢山あるのです。在宅支援にもっとサービスを提供するとか、地域展開やサテライトを行うようにとか、様々なことを要求されるようになると思われます。 それには、それだけの資金投入と人材投入を長い時間をかけて施設に行ってきましたので、それを地域に返して欲しいと思うのです。 いずれ、これらを受け止めて運営していく施設が、残っていくのだと思います。 |
田中 滋 氏: |
ありがとうございます。 |