「デンマークにおける高齢者福祉・予防政策」:2


 私は皆様の手元にありますプロフィールどおり、ホームヘルパーとして高齢者福祉の仕事をした後、看護師の資格を得てオーゼンセの大学病院に就職し、さらに高齢者福祉施設にて施設長を勤めました。
 現職は日本にはない職業です。日本でいう自治体の社会福祉課の課長にたいして、助言をするアドバイザーという役割です。社会福祉政策について検討・比較し、教育を行う立場にあります。社会福祉課長や市長・社会福祉委員長に社会福祉の重要性や実際の企画などを行います。
 さて、スライドを見てみましょう。細かくデンマーク語が書いてありますが、重要な部分だけ訳していきます。

 私が勤めているミドルファート市は、デンマークでも中間くらいの大きさを持ち、人口が3万6千人程です。高齢者が実際何人いるかというと、67歳以上の人が5,300人です。65歳以上となると6,000人います。自治体の職員は3500人居り、そのうち社会福祉課の職員は1,400人となります。さらに高齢者関係に携わる人は、その中の950人になります。
 950人のうち、500人はプライエムセンターに勤めています。プライエムセンターは日本語に訳すと特別養護老人ホームとなりますが、ここに勤めています。残り400人がホームヘルパーです。そして30人の訪問看護婦がいます。
 この町には7つの公共のプライエムセンターがあります。プラス、1つ民間のプライエムセンターがあります。定員は300人で、そのうち57人分が認知症の方用で、22人分がショートステイです。さらに2人分が認知症の人のためのショートステイに割り当てられています。

 さあ実際の予算なんですが、日本と比較してみましょう。寝たきりのいない国でもこれだけの職員を使っていると、これだけのお金が掛かります。日本でもお金がない、人手不足だといいますが、お金さえかければ同じことができるんです。この1,400,000,000とありますが、これに20をかけると、現在のレートによる日本円換算額が出ます。この金額がミドルファート市の予算です。
 そのうち半分近い650,000,000×20が社会福祉課の予算です。そのさらに半分くらいが高齢者福祉の予算です。この3,000,000,000に×20すると出てくる予算さえあれば、日本でも先ほどの訪問看護の人数が400人で、訪問看護師が30人という体制を作ることができる予算になります。

 さて、デンマークでは在宅支援を希望する人が現れたとき、どのように介護が行われるでしょうか。例えばあるおじいさんが、特別養護老人ホームに入所したほうがいい状態になった場合や、あるおばあさんが認知症になってしまった場合。
 こういった情報が町の在宅課に入ると、その在宅課の人が御宅を訪問し、本人と直接会話を行います。そしてどのような支援が必要なのかを話し合います。
 さて、ここで本来なら特別養護老人ホームに入れるべき状況だったとします。けれど特養が全て埋まっている場合、可能な限り在宅支援で暮せるような体制を考え出します。このように市の在宅課には、日本でいうケアマネのような仕事をする人がいるのです。
 その時に、日本ではお金がないから「ダメ」と言われてしまう場合がありますが、デンマークでは優先すべき事項がちがいます。今その人に一番必要な支援は何かということが重要なのです。例えばホームヘルパーが必要だったら、町の決裁印が押される前に派遣してしまうのです。このように、住民にとって必要なものを素早く提供する姿勢がデンマークでは浸透しています。
 例えば補助器具に関しても、必要とする人に提供されるわけですが、「欲しい」と言われても無差別に与えるわけではなく、専門のセラピストとよく話し合って必要な補助器具が支給されます。
 デンマークの職員が仕事をしやすいと思うところは、この補助器具の事を例にとると、OTにかなりの権限があるといったところです。日本ではOTがさらに医者に判断を仰がなくてはならないなどの制限があると思いますが、デンマークでは一番現場に接している人の判断が大切だと考え、OTに決定権を委ねているのです。地方自治体は所有する特別養護老人ホームに「今年の予算はこれだけです」と、どんと金額を提示してしまいます。あとはそちらで好きなようにやりなさいと言ってしまうのです。このように中央集権ではなく、中央分権で仕事を進めています。
 それぞれの職場の長でも、看護師の資格をもっていたらそれを生かせる場所に就くようになっているのも特徴的です。専門の知識を生かす事によって、住民に対して高度なサービスを提供できるようになるのです。

 次に高齢者福祉関係で働いている人のカテゴリーなんですが、このスライドの一番上を見て下さい。社会保健介護助手という意味の言葉です。日本でいうと介護ヘルパーにあたる役職です。日本ではヘルパー一級で360時間ほどの勉強が必要ですが、デンマークの社会福祉介護助士は一年二ヶ月の教育を受けなければなりません。さらに一年八ヶ月の教育を受けますと、社会保健介護士という日本における介護福祉士と似た資格を取得できます。その上が看護師です。これが介護福祉にかかわる最も多い職種の人々です。
 社会保健介護助手の教育システムについてご紹介しましょう。期間は1年2ヶ月。教育内容は、3分の1が学科で、残りが実習となっています。日本と一番違うのは、お給料をもらいながら勉強ができることです。社会保健介護助手の教育を受ける人は、日本に置き換えて考えるなら、その人が属している地方自治体――札幌市などに雇われて、勉強しながらお給料をもらうのです。そのため実習先も札幌市にある特養や老人介護保健施設になるのです。ちなみに助手の給料は日本円にすると17〜18万円になります。
 この介護助手という職に適した人は、人との交流が好きな人、高齢者の相手をする人ならば、高齢者を好ましいと感じる人です。それが一番重要です。
 先ほども触れましたが、介護助手になるには、しっかりとした基本の教育を受けていなければなりません。デンマークでいう基本教育は、日本でいう中卒程度の教育のことです。ここが学歴社会で皆高校へ行かなければと考える日本とデンマークの違いです。そして介護助手になることを望んでいるうち50%の人は自治体が面接し、介護保険介護助手としての勉強をスタートし、残り50%は基礎教育が終わっているかの確認のペーパーテストを受けることによって採用されています。
 この介護助手の教育課程が終わると、社会保健介護士の教育課程へと移行することができます。これも3分の1は学科の勉強をし、3分の2は実習を行います。介護助手との違いは、より医療関連の科目を学び、実習先に病院が含まれます。更に病院には精神病院も含まれる事になります。そのため、社会保健介護士の資格を取得すると、高齢者福祉施設・在宅介護・一般病院・精神病院に就職できるようになります。
 この職に就くことで一番大事なことは、やはり対人間の仕事が好きであること。そして社会保健介護士になるためには、助士の資格を持っているか、看護師の資格、若しくは外国のこれに準じる資格を持っていることが必要です。
 社会保健介護士の場合も、自治体に採用された上で勉強をしながらお給料をもらいます。この場合の給料は助士より少し高い日本円にして二十万円前後となっています。
 看護師の場合には、高校卒業の資格が必要です。ようやく高卒の資格が必要な職種の話題が出てきましたね。教育機関は3年半になります。高校を卒業していなくても、高等学校に類似した教育を受けていれば看護師になれます。ここにデンマークの実力主義の考えが現われています。そのため、高校を中退した上で、9ヶ月くらい病院や関係ある職で働いていたとか、あるいは高齢者施設でヘルパーとして働いていたなら、これも認められます。さらには外国で三ヶ月以上高齢者施設や病院で仕事をしていたというのも、考慮されます。
 特に高齢者介護支援において一番責任を持つ職種は、看護師です。日本ではお医者さんですね。その次に社会保健介護士。そして助士が彼らの指示のもとで作業をするという構図です。またこの資格を持っている人はこの仕事ができるということが、皆わかっているので、お互いの出来ることを把握しながら仕事を進めていくことが出来ます。

 さて、食事に関してです。私のいるミドルファート市では、三つの大きな食事を作れる高齢者センターがあります。
 そしてセンター内にある4つのキッチンでは自分で作ることができます。
 ほかに7つのカフェテリアがありますが、在宅で暮している人もこちらを利用できます。
 高齢者はこれらのように自分で作るのと他の二つを利用するのと、どれを選んでも良いようになっています。
 高齢者センターでは、センター内に住む人にも食事を作っていますが、センター外の在宅の人にも配食サービスを行っています。ここで日本との文化の違いが出るんですが、デンマークでは三食のうち暖かいご飯は一度だけなのです。朝食は冷たいもので、パンとコーヒーだけ。もう一食もサンドイッチとコーヒーだけです。デンマークで暖かい食事というと主食のジャガイモ料理や肉・魚料理だけです。そのため、デンマークで配食サービスをしてもらいたいと思われるのは、作るのが大変な暖かいご飯の分だけなのです。

 今の写真は暖かいご飯を配食する様子です。この食事は一食約50クローネ=1,000円程度になります。
 プライエムセンターとは全部住宅です。現在デンマークの高齢者は、個室でバス・トイレ付きという二十畳ほどの空間に住んでいます。住宅というからにはキッチンがあります。そこで自分で食事を作ってもいいのです。

 次は認知症の方々のことです。ミドルファート市には57人分の認知症グループホームがあります。そのグループホームもプライエムと同じ個室の住宅で、そのほかに二人部屋のショートステイがあります。以前のデンマークでは一般の人々と一緒に生活をさせるようにという方針で認知症ケアを行っていましたが、今ではそうするよりも、認知症の人達だけで生活させたほうが安定することがわかったので、そちらへシフトしています。
 ただ高齢者施設に来て、そこに住んでいるうちに認知症の症状が進んでしまったとします。それでもそこで上手くやっていけ間は、その高齢者施設で暮すようにしています。そのほかに5人分の認知症のデイルームがあります。

 デンマークにはディメントコーディネーターという認知症コーディネーターがいます。彼らは看護師の資格を持つ人や、社会保健介護士やPT・OTの資格を持つ人など、介護の知識を持つ背景のある人が、認知症コーディネーターの120時間の教育を受けることでなれる職業です。
 ミドルファート市には一人いて、その人は各施設を回り、職員に対する教育や指導・助言をします。更には認知症の家族に対しても助言と指導を行います。そして各施設から職員を集め、認知症コーディネーターに近い知識を得られる講習会を行います。

 認知症介護には重要なポイントがいくつかあります。白黒をはっきりさせて、曖昧なことを言わない・やらないこと。静かで、広い空間を用意すること。ゆったりした時間を持つこと。これらを満たして、認知症の方々と接することが重要だと考えられています。
 周りが忙しくしていたり、周りにたくさん人がいたりすると認知症の方々は落ち着いて生活ができないのです。
 そのため、広い空間でゆったり時間をかけてきまった職員がケアを行うというのが認知症の方々へのケアの理想です。
 認知症のみならず、高齢者のケアには必ず個人支援計画を作ります。
 デンマークでは高齢者福祉法や障害者福祉法などの分類されて立法されてはいません。全て社会サービス法という国民全てに適用される法律で動いています。1998年にこの法律が作られました。かつては自分の施設にいる人だけをケアし、施設にいる人々も受身の形でケアを受けていました。社会サービス法になりますと、○○さんのいる家に訪問しお世話をするという、○○さんが主体に考えられるようになりました。これから施設の写真をお見せします。

 誕生祝いのケーキなんですが、これはアンデルセンの生まれた地域の独特なケーキになります。
 下は普通のバースデーケーキです。

 アクティビティ、日中の作業については高齢者がかつて経験したことがあるようなものを行うようになっています。これは例えば男性と女性がいて、みんなで絵をかきましょうと言っても、男性は絵など一度も描いたことのない人で庭仕事が好きだった場合、全然絵など描く気が起きるわけがないのです。これが歌を歌いましょうという事でも同じことが言えます。
 家庭の主婦を長くやっている人はキッチンで料理をするとか、木工作業が好きな人はその作業をするなど、興味を持っていたり、過去の仕事に関係のあるアクティビティが最も効果的なのです。
 デンマークで現在重点的に注目されている認知症は、前頭葉性の認知症です。前頭葉性の方を他の認知症の人から分離させて、同じ棟で生活してもらっています。その棟は広く、ゆったりと時間がながれるような空間をつくり、物を壊したり危害を加えたりする異常行動をとる方もいますので、なるべく他者との接触をしないようにしています。

(デイセンターの写真)
 在宅の人のためのデイセンターもかなり多くあり、定員も800人前後となっています。ここでも職員は、彼らが何をしたいのかを優先して、アクティビティを行っています。バスなどで自分の出身地をめぐったりするのが、特に認知症の人には喜ばれるようです。
 高齢者の福祉で一番重点が置かれているのは、高齢者自身の自己決定を尊重することです。年金が月11万払われたとして、それをどう使うのかは高齢者の自己決定に委ねられます。施設に入って部屋代は払うけれど、食事代は自分でつくるから払わないとか、掃除洗濯も自分でするから代金は払わないとか、そんな風に自分ですることを増やしていくと、使わずに済む年金が手元に残るわけです。このように自己決定権を尊重しながら、高齢者への経済的な支援も行っています。

 ミドルファート市では、ホームヘルパーの支援を受けている人が現在1500人います。ホームヘルプの内容は、普通の身体支援に衛生介護も含まれます。
 訪問看護を受けている人は700人います。看護師は3シフトで勤務し、どんな時間でも連絡をとれば看護師が派遣されるようになっています。
 7つのプライエムセンターがあると先に話ましたが、中には建設してから50年経ったものもあります。現在は個室は一つもなく、住宅形式になっています。
 その写真をお見せしましょう。海に近いところの高齢者センターの様子です。

 最近の高齢者はコンピューターも使うので、センターにも常備しています。

 各センターには高齢者自身が運営しているキオスクがあります。
 原価で買えますので、高齢者は町まで買い物に出かけなくてもいいという利点があります。

 次は行事の写真です。
 私達がパーティーをするときは、住民の家族も招待して行います。

 センターといいますがユニットケアのようなもので、1ユニット9人という形で、共同で使えるキッチンがあります。
 また各住居には庭付きのテラスがあります。

 さらに日本でもあるとは思いますが、美容室や歯科診療室などもあります。

 40周年記念行事の時の写真です。デンマークではこういう行事に有名人を呼ぶことが多いです。そうすると高齢者が大変喜ぶからです。

 デンマークにはボランティアがいないといわれていますが、最近はボランティアをする人が増えてきました。ただ、実労働をともなうものではなく、高齢者との電話での話し相手や、一緒に散歩へ出かけたりとか、パーティーの時にサイドで手伝いをしてくれるようなものです。
 施設で大きな行事があると、必ず市長が来ます。

 最後にショートステイについてなのですが、22名います。

 夫婦がいて、片方がかなりの重度で、もう片方がハワイ旅行へ行きたいと考えていたとします。そこで具合の悪い人だけをショートステイに置いていくのは日本では難しいかもしれませんが、デンマークではできます。重度の人を日常介護しているのに、それを休みや気晴らしなしで続けていくと、健康な人も重度化してしまうのです。そのため介護休みのために、ショートステイを使うことができます。最低3週間までショートステイで預かることができます。

 これはショートステイの写真ですが、上にリフトがついていますね。今デンマークでは新しく作る施設には、ショートステイ以外にも必ずリフトをつけています。天井からリフトは非常に場所をとらないためです。
 このように短い間の講演でまだ言い尽くせないこともありますが、以上で終了いたします。