今日は老齢健康科学研究財団からのお招きにより、皆様にデンマークのことについてお話しする機会を得ましたことを感謝申し上げます。
まずは同行しました講師をご紹介します。
モモヨ・タチエダ・ヤーンセンは、デンマークでは社会保健介護士の資格を持つ他、日欧文化交流学院の介護科の主任教官をしております。
次は作業療法士のメッテ・ソノゴウドです。彼女は認知症コーディネーターの教師であり、また認知症に関するアクティビティの講演をフリーランスで行っております。
そして看護師なのですが、介護士養成学校等で認知症の方との対話やコミュニケーションについて講義を行っているキヤステン・オルセンです。
次も同じ苗字ということで、キヤステンさんとはご夫婦です。精神科医とご紹介していますが、特に彼は医師となった後、専門として精神科を勉強し、さらに老齢学も専門としておりまして、今は地域精神医療班の主任をしております、ロルフ・バング・オルセンです。
以上で講師の紹介を終わります。
さて、本日のテーマは「認知症介護」ですが、デンマークと日本社会がどのように違うのかを私の方からご説明したいと思います。
まず社会福祉・社会保障という言葉が日々使われていると思いますが、その二つで一体誰を保障しているのかと言われると、すぐ思い出すのは社会的に弱い立場にある方……母子家庭や貧困者・障害者・高齢者という方々の生活を保障するのが社会福祉であり社会保障であると思います。これは決して間違いじゃないですよね。一方でデンマークでは誰を保障しているのか。
デンマークは社会福祉国家と呼ばれています。
日本は社会福祉国家とは呼ばれません。
社会保障・あるいは社会福祉をしっかりと実践している国と、社会福祉国家にはどういった違いがあるのか、という事を私から皆様にお知らせしたいと思います。
社会福祉国家とは何か。その国に生まれると、死ぬまで生活が保障されている国のことであります。ご存知の通り、ゆりかごから墓場までという言葉がございます。簡単に言いますと、デンマークはゆりかご以前から墓場以後まで保障されていると言っても過言ではありません。
日本は、あまり良い言葉ではないんですが「社会的弱者」に対して、最低限の生活を保障すると日本国憲法で謳っているわけですが、果たして本当に最低限の保障をしているのかどうか、最近の自立支援法改正についてなどを見る限り、懐疑的にならざるを得ませんが……それはさておき、デンマークでは日本と同じように国民の生活を最低限以上にしっかりと保障しているといえますが、保障しているのは、国民全ての生活についてです。ここが日本と違うところだと言えます。
それでは国民全ての生活を保障するとはどういうことかというと、先ほど言いました「ゆりかごから墓場まで」のゆりかごの前、出産の前から保健師さんが来て出産のお手伝いをしてくれます。さらには「家庭医制度」というものがあるのですが、国民全員に主治医がいるわけです。
その主治医も出産の手伝いをしてくれています。そして病気になったときも、医療費は全て無料となっております。さらに子供が大きくなって保育園や幼稚園へ行かせたいという時にも、国が必ず補償しますと約束しています。
これなんかは、日本は今少子化で困っている所ですが、国が国民に対して、子供を産んだ時に産休をとることが出来、育児休暇もとることができ、更には職場復帰もできる制度をしっかりと作っているなら、出生率が日本ほどには低くならないと感じます。
こういった制度を持っているデンマークでは、現在出生率が1.9前後となっています。
女性が安心して仕事もでき、出産もできる状況を作り出すことが、少子化には必要だろうと思われます。
次に全ての国民は学校へ行きます。デンマークでは義務教育が9年間あり、全て無料となっています。これは日本と同じですね。そして5.6%くらいの方が高等学校へ、残りの方々が職業別専門学校へ行きます。その教育費も一切が無料です。さらに上の大学や上級の専門学校へ進む方もいますが、こちらの入学金・授業料などは一切必要ありません。こういった形でも、デンマークでは国民全ての生活に関して保障をおこなっているのです。
教育と福祉では話が違うのではないかと感じる方もいると思うのですが、この「福祉国家」というものはそれら全てを含めて保障しているのです。
さて、ある家庭に障害を持った子供が生まれたとします。その家庭の収入には一切関係なく、障害者に関する様々な支援が必要になります。補助器具も必要になるかもしれませんし、住宅も改修が必要になるかもしれません。
まず生活面で一番必要になるのは現金です。別な表現でいうと「障害者年金」ということになりますが、デンマークでは「早期年金」と言います。早期とは国民年金の給付時期に対して早いことを意味しています。国民年金は65歳からもらえるものですが、早期年金はそれ以前に受け取れるようでなければならないのです。障害を持っているために就労ができないと認められた場合には、早期年金が支給されます。これは18歳から支給されますが、その理由はデンマークの扶養義務が18歳未満の子供、夫婦、その他となっているからです。デンマークの子供は18歳になると、経済的にも物理的にも親から独立します。ということは、18歳を過ぎると親からお金を貰って教育機関へ通うということはまずありませんし、25歳までの間に親元から離れて独立して生活するようになるのです。障害を持った人もまた、普通の人と同じように親元から独立をしていきます。そこで、先ほどの早期年金をしっかりと国が支給しないと、生活ができないことになり、ノーマライゼーションが達成されないこととなります。早期年金は、重度の筋ジストロフィーの方になりますと日本円に換算して34・5万円が支給されます。そして2DK相当のところに住んで居ます。さらにパーソナルアテンダントとして、4〜5人のフルタイムのヘルパーを付けます。こういったことがデンマークでは可能なのです。これもノーマライゼーションの精神に基づいて、可能な限り障害を持っている人の生活条件を障害を持たない人の生活条件に近づけるためです。
この方の場合ですと、住居費を支払い、食費も払い、電気代も払わなくてはなりませんし、移動に必要な車のガソリン代もかかります。そういったものを支払って行っても、月に4〜5万手元に残ります。
比べて、日本では障害者年金を貰っても少なく、さらに一割負担・三割負担と本人が負担をしなければならなくなります。この違いは何なんでしょう?
同じ障害を持った人で、同じ人間が福祉政策を行っているはずなんです。
なぜそんな違いがあるのかと私達はしっかりと考えなければなりません。
次に国民に何を保障しているのかといいますと、高齢者です。皆さんも、障害者にはならないかもしれませんが、必ず高齢者になります。
デンマークでは65歳になると、年金がもらえます。金額は日本円に換算して18〜19万円くらいになります。高齢者福祉に関係する高齢者、センターへ行かなければならない人、特別養護老人ホームへ入らなければならない人、あるいは在宅介護を受けなければならない人というのは、日本でもそうだと思うのですが、全高齢者の20%ぐらいなんです。さて、その20%の特別養護老人ホームなどへ入らなければならない人々について考えてみます。
18万を一人の高齢者がもらいます。そして特別養護老人ホームに住んだとします。すると自分で部屋代・食事代・光熱費を払うことになります。そして一ヶ月間にかかる費用を全て払うと、手元にかならず2〜3万円は残るようにと、国は指導しています。ですから、デンマークで生活する高齢者には1割負担などの本人負担は無いのです。日本より遥かに小さい国なのに、なぜそれだけの福祉が行える資金があるのでしょうか。デンマーク人と日本の皆さんとの収入には、そう変わりはありません。むしろ皆さんの方が収入は多いかもしれません。では一体どうなっているのでしょうか。
皆さん貯金をなさっていますよね。教育のため、病気をした時のため、そして老後のためと色々理由はあるかと思います。デンマーク人達は今までにお話したような保障が行われるように、税金を国に納めます。まず直接税として収入の半分近くを。さらに消費税が25%かかります。これだけ全国民が治めていると、そのお金は皆さんが貯金しているような銀行ではなく、国庫に入ります。国は、そのお金を必要としている人に分けていくシステムになっています。日本では、介護保険を導入した時にそういったシステムにはならなかった。だから保険料をとって、そこから資金を捻出しようとしましたが、まだまだ足りないという現実が立ちはだかってしまいました。そして高齢者から障害者に範囲を広げましたが、足りないことが分かりきっている状況です。それに比べて、デンマークでは国民みんなが、お金を出し合って助け合うというシステムを持っているのです。
その辺りが、これから日本がどうしたらデンマークに近づけるのか、何をしたらいいのかと考えるべき問題なのではないかと思います。
|