|
2006年度第19回シンポジウム 「福祉の国デンマークの認知症ケア最前線」 |
![]() |
|
|
|
||||||
|
|||||||
photo:キヤステン・オルセン 氏 講演風景 |
|||||||
私は認知症の方とどのようにコミュニケーションをとるのかということについてお話させて頂きたいと思います。 |
|||||||
|
|||||||
コミュニケーションを取るためには、座っている認知症の方に対して職員が立ったまま、上から見下ろすような形で話してはいけません。職員が認知症の方に同じ目線で話しかけることが大切です。 また、もし職員が上の空で別な事を考えながら話しかけたとします。認知症の方が返事をしても、関係のない答えが返ってくるかもしれません。また認知症の方も上の空だった場合、コミュニケーションが成立しません。 そのほか認知症の方との会話で重要なものは、ボディーランゲージです。特に認知症の方には、コミュニケーション時に会話だけでは10%ぐらいしか通じ合えないのです。そのため、ほかをボディーランゲージなどで補わなくてはなりません。まず40%を占めるのがボディランゲージで、残りが表情や言葉の抑揚やニュアンスです。怒ったような話し方なのか、やさしい言葉遣いなのか、あるいは急いで話してしまっているのか、言葉の使い方やテンポによっても左右されます。 それから認知症の方の記憶を呼び返すために、何度も同じ言葉を繰り返すことがありますが、例えば覚え書きを見せるなどの方がコミュニケーションに役立つ場合もあります。それから視覚、認知症の人から相手がよく見えるかどうか。見えない場合は、メガネなどを用意する必要があります。 認知症の人の耳が遠い場合もあります。補聴器をしっかりとしているかどうか確認することも必要でしょう。 言葉は簡潔明瞭なものを使うこと。俗語や流行語もなるべく使わないよう、標準語で話すようにします。さらには会話の合間に休憩を挟むことも大切です。なぜ間を置くのかといいますと、認知症の方は理解するまでに時間がかかるのです。それを無視して話し続けると、理解が追いつかないために話がバラバラにしか伝達されず、コミュニケーションが成立しなくなってしまうのです。 目線を同じにして相手と話していると、会話の間を置いた時に相手が理解したかどうかをキャッチしやすくなります。 認知症の方が発信するボディーランゲージを理解することも大切です。 職員として接する場合に、皆さんの会話の仕方も重要です。もごもごと小さな言葉で話すと、何を話しているのか聞き取れませんよね? あとは後ろに手を組んで話すとボディーランゲージができませんから、認知症の方からすると、身振りという判断材料が限られてしまうことになります。 さて会話の仕方なのですが、最初に相手の感じている事に対し、自分も同調していくことが大事です。感情の面では、寂しい・悲しいと相手が感じていたら共感することが大切ですし、靴が合わずに痛いと言って脱ぐ方が多いのですが、そのときに職員が靴を履いてみると、中に石が入っていたから痛かったのだと原因が判明することがあります。このように、相手の状況に自分を当てはめることによって、共鳴することができます。そこで、会話が成り立つのです。 次はバリデーションです。皆さん専門家なので既にご存知かと思いますが、例を挙げてみましょう。 皆様も経験があると思いますが「お母さんに会いたい」と施設内をぐるぐると徘徊する認知症の方がいたとします。もちろん職員はみんな、彼のお母さんはもう何十年も前に死んでしまったことを知っています。そこで本人に「あなたのお母さんは死んじゃったじゃない」と話してしまってはおしまいです。そうではなくて「あなたのお母さんはどこに住んでいるんですか? 何をしている方ですか? 名前は?」とお母さんについて知る事により、認知症の方に同調できるように努めることが大切です。 また、認知症の方が言葉での慰めが理解できないようであれば、抱き締めるなど態度で示す必要があります。 それから認知症の方のアイデンティティ、彼がやったことやどういう人であるのかという事を認めてあげることが大切です。 例えば一人のおばあさんが、夕食前にテーブルセッティングをきちんと行っていたとします。そうしたらおばあさんに「上手にテーブルセッティングができましたね」と教えてあげるのです。それによって、おばあさんがやった事・人格を認めてあげることになります。更に私達がおじいさん又はおばあさんと一緒にいる事が「嬉しい」のだとしっかりと伝えることが大切です。 次に、認知症の方々は沢山選択肢があるとなかなか一つに決めることができません。例えば洋服掛けに沢山の洋服が掛かっているおばあさんに「今日は何を着ますか?」と尋ねても、おばあさんは決められないでしょう。そういった時には「赤い服にする? それとも青い服にする?」と二者択一にするなど、選択の範囲を狭めたことで決定しやすくなり、おばあさんは「赤にする」などと返事をしやすくなるでしょう。しかし、二者択一でも決定できなかった場合には、彼女の人生暦を思い出します。彼女はパーティーの時には赤い服を着るのが好きだったという情報があったとします。そして今日誕生会があるのでしたら、職員が「じゃあ今日は赤にしましょう」と言えば「そうね」と返事が返ってきて、案外コミュニケーションが上手く成立するでしょう。 ですから、人生暦を知れば知るほどお互いの状況が把握でき、決定を促す時に役立つことになります。 会話をするときに大事なのは、認知症の方に対して大人同士として話すことです。認知症の方に幼児語を使ったり子ども扱いをすると、見下されているような気分になりますので、コミュニケーションを阻害することがあります。 それからユーモアを持ちましょう。認知症の方と一緒に、大いに笑うことが大切です。様々なコミュニケーション方法をとるためにも、私達の心のファンタジー――想像力をたくましくしましょう。往々にして認知症の方は様々なことを忘れてしまっています。ですから思い出せるためにかつて印象を強く持っていたものを見せたりすることによって、記憶を呼び覚ますことがあります。それによりコミュニケーションが円滑に取れるようになります。 例えばお祖父さんに「今日は息子さんが尋ねてきたでしょう?」と聞いても、「わからない」と答えられてしまった時。そのままではコミュニケーションが途絶えてしまうので、その息子さんの写真を「この方でしょう?」と見せてみると「ああそうだ。太郎が尋ねてきた」と返事をしてくれるでしょう。 高齢者や認知症の方がなかなか水分を取らない事があります。そんな時には彼らの目の前に移動して、飲む動作をしてみせることで、促すことができます。ついでに乾杯なんてしてみて、気分を盛り上げるのもアリでしょう。ようするに相手の鏡になるのです。それから脳が侵されたから水を飲むことを忘れているので、側へ行って手を添えるのです。すると脳ではなくて身体がその動作を覚えているので、飲んだり食べたりするようになるのです。ですから記憶に関しては脳の領域ですが、実際の行動については身体が憶えているのです。 コミュニケーションにおいても、過度に職員の側が手を出しすぎてもいけません。できる事は自分でさせることというのがデンマークの介護における姿勢です。 そして認知症ともいえども、一人の人間として尊重すること。皆さんと同じ人間であるという気持ちを持って対応することが大切なのです。 |
|||||||
|